「……お前さ、いまEiji Sawakitaにあるまじき顔になってんぞ」
「え~? えへへ、だってリョータが素敵すぎるし、それをいま俺だけが見てるんだって思うと嬉しくてさあ」
そう言って、さらに幸せそうに目を細める沢北としばし目を合わせて、少し口角を上げた宮城はポンッとコルクを抜いてテーブルの上に置かれたグラスにそれを注いだ。その様は無駄がなく洗練されていて、きっと誰もがそんな宮城に魅了されてしまうだろうと沢北は想像して、少しだけ嫉妬した。
人をよく見ていて、面倒見もよい宮城は、本人が思っている以上に多くの人をその懐に受け入れている。年上も年下も性別も関係なく、魅力的で頼りたくなるような存在なのだ。それは人間的にも、バスケ選手としても宮城の大きな強みになっている。年を重ねるとともに、その魅力には磨きがかかっていて、沢北はたまに心がざわつくのを感じた。勿論、宮城の人付き合いや行動を制限したいなどとは微塵も思わないのだが、小さな独占欲が疼くのをいつからか仕方のないことだと飲み込むようになった。
だから、そんな宮城の瞳がただ自分だけを見つめているとき、まるで初めて目を合わせたようなときめきと自身のすべてを包み込まれているような安心感を沢北は感じるのだ。それは、何にも代えがたいほどの幸福感と言っても良かった。
ただ流れるような宮城の仕草に見惚れていた沢北をよそに、いつの間にか宮城はふたつのグラスに適量を注ぎ終えていたようだ。ジャッと氷の張られたワインクーラーに瓶を差す音で、沢北はハッと我に返る。
「どうぞ」
スッと沢北の目の前にグラスを滑らせて、宮城は綺麗に口角を上げ、片眉を挑戦的に上げて沢北を見た。途端、目を見開いた沢北はその顔全体を紅潮させたかと思うと、バッと両手で顔を覆って両足をジタバタさせた。
「うわあ~~~~!!! かっこいい~~!!!! 俺の恋人、色気がヤバすぎるッ……!!」
「それはどうも。エージは反応わかりやすく大きいから、やりがいあるな」
「返しも余裕ある感じでずるい~~!! 好き~~~!!!」
「ふはっ、オレの恋人、めちゃくちゃ可愛いな。オレも好き」
宮城がその額に軽く口づけると、ピタリとその動きを止めた沢北が自身の顔を覆っていた大きな手の平からやっと顔を上げた。しばし目を合わせてから、仕返しとばかりに沢北がチュッと宮城の唇に触れ、すぐに離れていく。至近距離でふたりは目を合わせて、示し合わせたように小さく吹き出した。
「ほら、グラス持って」
テーブルを挟んで向かい合わせの椅子に座り直した宮城は、自身の手元にあるグラスを手に持つと、沢北を見て軽くグラスを持ち上げた。うながされた沢北も目の前のグラスを持つ。
「カンパーイ!」
「ん、乾杯」
ふたりの真ん中で合わせたグラスがカチンと音を立てる。ひとくち口に含むと泡がシュワッと舌の上ではじけた。シーズン中はお互いにいっさいアルコール類を摂取しないため、久しぶりに口にする酒の味は少しだけ刺激的だった。
眼前に広がる海の波の音だけが小さく聞こえる中で、ふたりは穏やかにその時間を過ごしていた。酒に弱い沢北は少しだけぼんやりとした表情で、遠くを見ている。
「なんか、大人になったんだなって感じがする」
その横顔は夕日に照らされて輝いていた。その口元は薄らと笑みの形を作っている。
「…そうだな」
宮城は沢北が笑っているだけで、いつだって心がぽかぽかと日だまりの中にいるようだった。温かくて愛おしくて、そして沢北がいるだけですべてがキラキラと輝くようなのだ。
そんな日々は飽きようもなく、ただ平穏に過ぎていく。あまりにも美しく、優しい微笑みを向けられるとき、不意に宮城は不安になった。沢北からもらうばかりで、自分は同じだけのものを返せているのだろうかと。
「俺ってさ、退屈なの嫌いじゃん?」
「ん? あー確かにそうだな」
「だから、つねに挑戦してたい、刺激がほしい、みたいな感じっていうか」
「はは、そうだな」
唐突に始まった沢北の話がどこに転がるのか、宮城は予想がつかず、首をかしげつつその言葉に耳を傾けた。
「だから、実はリゾート地で特に予定もなくどうやって過ごせばいいんだろうって思ってたの」
怪訝そうにする宮城のほうを向いて、沢北はにっこりと笑って続けた。
「でも、ただのんびりするだけの時間が、リョータと一緒だとこんなに良いもんなんだなって」
宮城は虚を衝かれたように、少しだけ目を見開いて言葉を失った。
「今も俺の世界の全部、リョータがいるだけでいっつもキラキラし続けてるよ」
いつだってそうだった。不安に思う気持ちを見透かすように、沢北は真っ直ぐな言葉をくれるのだ。
「……うん、オレもだ」
にひひと子供みたいに無邪気な顔で笑った沢北の顔を、宮城は目を細めて見た。
「Ryota, I’m in love with you!」
「…急になに?」
「ふふ、言いたくなっただけ」
宮城の耳が酔いのせいでなく、赤く染まっていることに気付いて沢北はどうにもにやける顔を隠すことができなかった。
宮城もそれに気付いて、ややばつの悪そうな顔で沢北を見返した。
「……I know. I’m so lucky to have you」
「You too!!!!」
そう叫んで、沢北はぎゅうっと痛いほどに宮城を抱きしめた。その力に呆れるように包まれていた宮城も、強い力で沢北を抱きしめ返す。
ふたりじゃれ合うように笑い合っていよう。いつか、この世界が終わるその日まで。
空にはいくつもの星が煌めいていた。
