One scene of our youth中

2024.3発行
One scene of our youth中[深+松+三同大学if/全年齢/新書(二段組)/本文52P]
同大学同学科に入学した深+松+三の大学2年の終わりから3年生にかけて、3人がルームシェアをはじめています。
他登場キャラは、牧・藤・河・イチです。
通頒はこちら→ とらのあな


本文サンプル
「うお、マジかよ……」
 とある神奈川の海の近く、住宅街の一角で三井は思わずそう呟いた。横に並ぶ深津と松本も同様に、目の前の家を見上げながら、あんぐりと口を開けている。一緒に駅から歩いてきた牧が、カバンから鍵を取り出し、慣れた様子で門扉に差し込んだ。
 カチャンと錠の外れた音がしてハッと我に返った松本は、両開きの門扉を開けてズンズン進んでいく牧の背を慌てて追う。
「おい、本当にいいのか牧。こんな立派な家…」
 玄関に続く数段の階段を上り、ドアの目前まで来たとき、ふと右手側の様子が目の端に映った。
そこには、とんでもなく広いわけではないが、バーベキューくらいは軽々できそうな広さの庭が広がっている。3人は視線を奪われ、さらに言葉を失った。
「庭付き一戸建て、ピョン……」
 深津がぼんやりした様子で呟いた言葉をなんでもないことのように聞き流し、牧は朗らかに笑っている。
「勿論。電話でも言ったが、むしろ助かるよ。人が住んでない家って危ないし、すぐ痛んでくから、管理が大変でな」
 玄関を開けて、どうぞ、と振り向いた牧のことを、3人は唖然として見返すほかなかった。

*

 牧の叔母が建てたという一戸建ては、4LDKの2階建てだった。2階に6帖の洋室が3つ、1階にLDKとそこに繋がる6帖の和室がある。勿論、風呂とトイレは別で、キッチンはカウンター型の三口コンロにグリル、さらには食洗機まで完備されていた。大きな家具は残されたままになっていて、牧や牧の母がこまめに管理をしていたという言葉通り、すぐにでも住めるような状態だった。
 ひととおり家の中を案内された後、リビングに戻った4人は、ダイニングテーブルにひとまず座る。リビングの大きな窓からは、先程横目に見た庭の様子が見えていた。縁側のようなものはないが、リビングからすぐ庭にも出られるようになっているようだ。
「で、どうだった? なかなか悪くないだろう?」
「いや、悪くないどころかよすぎじゃね?」
「悔しいことに、文句のつけどころがないピョン」
「それは悔しがることじゃねえだろ……」
 はは、と牧が鷹揚に笑う。その様子があまりにも様になっていて、まるで若手実業家のような貫禄があった。これで同い年とは信じがたい。
「気に入ってもらえたなら良かった。できれば、叔母が置いていった大型家具はそのまま置いておいてもらえたら助かる。あと、庭に物置があって、その中にも荷物が置いてあるんだが、それもそのまま置かせてもらえるとありがたいな」
 牧が指さした窓の外、庭の隅には邪魔になるほどではないが、そこそこ大きな物置が置いてあった。3人はそれを見てから牧に向き直るとそれぞれうなずいた。
「もちろん構わねえよ」
「むしろ改めて家具買わずに済むなら、俺たちもありがたいよ」
「でかいテレビで試合が見られるピョン」
「たしかに!」
「それは楽しみだな」
「そんなに喜んでもらえるなら、叔母も本望だよ」
 瞳を輝かせる3人に牧も嬉しそうだ。
「うちはご覧の通り、いつでも引っ越してきてもらって大丈夫だが、引っ越し時期はいつ頃になりそうだ?」
「んー……後期のテスト終わったあとあたりか?」
 松本はスマホのカレンダーアプリを開いて、直近のスケジュールを確認した。
「そうだな。2月半ばから3月にかけて、とか? 今の家の契約も確認して、予定組まないとだな」
 隣に座っていた深津もその画面をのぞき込みながら、2月後半あたりの日付を指さす。
「このへん、春休みに合宿あるピョン。練習の予定も確認して決めるピョン」
「うん、わかった。とりあえず、2月半ばから3月くらい予定だってことで、急がないから予定決まったら教えてくれ。叔母と母にも具体的な契約のこと確認して、必要な手続きとか連絡するよ。賃料も相場よりかなり安くできると思うから」
「おう、ありがとうな」
「なにからなにまで世話になるな、牧」
「牧は想像以上に面倒見のいいやつピョン。これからもっと世話になるピョン」
 牧は一瞬、その瞳を瞬かせたあと、すぐに人好きのする穏やかな笑みを見せた。

*

「深津…ずっと気になってたんだが…」
 とある朝、いつものようにキッチンで朝食を食べていたときだ。ダイニングテーブルで朝食をとっていた松本から遠慮がちに声をかけられて、深津は口に運ぼうとしていたサラダチキンを持つ右手を一旦止めた。
「なんだピョン?」
「なんで朝飯、キッチンに立って食ってんだ?」
「なんで……?」
 その松本の問いに、キョトンとした表情で瞬きを数回した深津は、斜め上あたりを見、すでに口に含んでいたサラダチキンをもぐもぐと咀嚼して、ごくんと嚥下した。その間、しばし無言で考えていたが、ピンとくる答えは見つからない。
「楽、だから……ピョン?」
 それを松本の斜向かいで聞いていた三井は、ぶはっ、と思わず吹き出した。
「疑問形なのかよ。俺も、なんかこだわりでもあんのかと思ってたわ」
「だよな? 思うよな」
 三井の同意に力を得たらしい松本は、改めて深津に不思議そうな視線で向き直った。しかし深津は、語れる理由など持ち合わせていなかったから、ただ事実を口にするほかなかった。
「気づいたらこのスタイルに落ち着いてたピョン。むしろ、なんのこだわりもないからこうなったピョン」
 松本も三井も、その深津の言葉に「ええ?」と、懐疑的な声を出した。深津は深津でそれに不満げな表情を浮かべる。自分は事実を話しているまでなのだが、どうしてこうも疑われているのだろう。
 タッパーからブロッコリーをひとつ口に運んで、ゴリゴリとそれを咀嚼しながら、深津は開き直るようにカウンター越しにふたりが座るダイニングテーブルのほうを見た。
「逆に面倒じゃないピョン? プロテイン飲んで、サラダチキン食べて、ゆでたまご食べて、ゆで野菜食べて、フルーツ食べて、コーヒー飲んで……全部ここで完結できるピョン。テーブルに座ろうと思うと、さすがに皿に盛らなきゃだし、洗い物も無駄に増えるピョン」
 その迷いのない言葉と眼差しに妙に納得させられ、松本は「たしかに?」と思わず同意した。斜向かいに座っていた三井も、
「言われてみりゃそうか…?」
とその言葉に説得されている様子だ。
 実際、松本も三井もそのことを疑問に思っていただけで、深津が朝食をどう食べようがよいのである。だが一方で、松本は自身がこれまでの人生で、キッチンに立ったままご飯を食べようと考えたことがなかったのだと思い至った。人はそれぞれいろんな生活習慣を持つものだ、と興味深い。行儀はよくないけれど、今度軽食程度なら、キッチンで立ったまま食べてみてもよいかもしれない、と考えると少し愉快な気持ちになった。
寮生活では決められたルールの中で生活していたからか、あんなに濃い時間をともに過ごしたのに、まだ知らない面があるのだというのも面白く、松本は自然と薄く微笑みを浮かべた。
 黙々とシンク前で食べ進めていた深津は、最後のコーヒーを飲みきったようだ。軽くマグカップを水でゆすいで、食洗機にガチャンと音を立ててそれを入れる。
「お先、ピョン」
 ちょうど味噌汁をすすっていた松本は、ん、と口を閉めたまま返事をして、ちらりと部屋に戻っていく深津の背を見た。そのとき、三井が何かを思い出したように、あ、と小さく声を上げる。そして深津が去って行ったほうに身体ごと振り返って、「深津!」と大きな声で呼び止めた。
 三井は普段からわりあい声が大きいが、意識して張ったときの声は一等よく通る。キャプテンとしての深津のそれと同じような性質だろう。三井も中学時代にはキャプテンをやっていたという話だから、もしかしたらそこで鍛えられた発声なのかもしれない。
 その背にドアを閉めようとしていた深津は、そのドアを開き直して振り返った。
「なんだピョン?」
「今日って練習前、なんか用事ある?」
「今日は人と約束があるピョン」
「あら、そうか。なら今度でいいや。呼び止めて悪かったな」
「ピョン」
 三井との短い会話を終え、踵を返した深津が今度こそドアを閉め、しばらくすると洗面所の水を出す音が遠くに聞こえた。三井も振り返っていた身体を前に戻して、また朝食に戻る。ふたりの会話中も黙々と食べ進めていた松本は、すべてを食べ終えて手を合わせ、皿を重ねて立ち上がった。
「今日、なんか用でもあったのか?」
「いや、大したことじゃねーけど、ちょっと前に深津とプロテイン見に行こうって話になってたから。今日午後練だし、空いてたらちょうどいいかと思ってよ」
「あー確かにふたりともいろんな味、試してるよな」
「せっかく色々あるんだから、試してみたくならねえ? 飽きるしよ」
 食器をざっと水で流して、食洗機に並べながら「そういうもんか?」と松本は少し考えてみたが、ふたりのように新しい味を試してみようという気は全く起きなかった。プロテインはプロテインで、自分の中では食事とはまた違うカテゴリーに入っているらしい。 
「食べ物はわりと挑戦しようと思うんだが、プロテインはあんまりだな…」
「あんまりどころか、松本は全然冒険しねーじゃん」
「まあ……そうだな」
 食べ終わったらしい三井も、はは、と笑って立ち上がった。松本はシンク前の場所を譲り、ダイニングテーブルの椅子を、三井のものもあわせて元の位置に戻した。
「松本は今日、練習前なんかあんのか?」
「いや、俺は特には。天気もいいし、これから洗濯はしようと思ってたが」
 食器をすべて入れ終わったらしい三井は、ガンと必要以上に強い力でそれを閉めて、スタートボタンを押した。食洗機から水音が聞こえてくる。
「お、そしたらちょっと早めに出てさ、花見がてら歩きと軽いジョギングで大学行かね? 途中に桜が咲いてるとこがあんの、こないだ聞いたんだよ」
「へえ、いいな。昼は学食で食べるか?」
「そうしようぜ。ちょっと早めになっちまうけど、全体練習前にシュート確認したかったし、ちょうどいいや」
「それなら付き合う。俺もシュート練したかったし」
「おう。そしたら二時間後くらいか? リビング集合な」
「ああ、わかった」
 松本の返事にニッと笑い、部屋に戻っていった三井が階段を上がる音を聞きながら、松本はそのまま洗濯機のもとに直行し、洗面台周りにかかっていたハンドタオルなども突っ込んでスタートボタンを押した。

*

 向かい合って座り、メニューを吟味していた一之倉と河田のもとに、待ち合わせの時間から10分ほど遅れていた深津と松本が、店員に案内されてやってきた。
「おお、来たか」
「迷った?」
 案内してくれた店員に軽く頭を下げながら、力なく「ああ…」とうなずいた松本は、一之倉の隣にボディーバッグを外しながら座った。その向かい、河田の隣に座った深津は、
「このへんの道、ややこしすぎるピョン」
とのたまって、平然とした顔をして、早速河田の手元にあるメニューをのぞき込んでいる。
 深津が相変わらずの方向音痴っぷりをまるで無視した自信満々な態度で開き直っているのを、松本は恨めしげな目で見た。
「お前が迷いなくつき進んでいくせいだろ……」
その疲弊しきった声から、松本が必死に深津を制止しながらもなんとかたどり着いた様が容易に浮かんで、一之倉はその肩をねぎらうように軽く叩いた。
「お疲れ、松本」
「うん……待たせて悪かったな」
 河田も同じようにその様が思い浮かんだのだろう。特に遅れたことは気にしていない様子で、気持ちよく口角を上げて松本を見た。
「なんもだ。俺らもまだ、メニュー見てるとこだったからな」
 ふたりへの感謝を力ない微笑みにのせてから、松本は店内をぐるっと見回した。
「ここイチノが予約してくれたんだろ? ありがとう。シャレたところだな」
「さすが東京だわ。なにより席が広いのがいいべ」
 河田はそう言って、自分が座った広めのひとり掛けソファの肘置きをポンポンと叩いた。よかった、と一之倉が目を細める。
「いい店だよね。何回か来てるんだけど、肉が美味しいんだよ」
「この塊肉、美味そうだピョン。これ食べたいピョン食べたいピョン」
「おう、たんと食え。イチノ、なんかほかにおすすめあんのか?」
 そう聞かれて、うーん、とメニューを見た一之倉は、真ん中あたりに書かれていたメニューを指さした。
「このローストビーフは食べてほしいな。あとはどれでも美味いから、好きなの選んでくれたらいいよ。俺はいつでも来られるし」
 一之倉に促されて、またメニューに視線を戻した3人はしばらくそれらを吟味するように眺めた。しかし、深津と松本はしばらくしてうなり始める。
「……すまん、なにがなんだかよくわからねえ」
「やっすいチェーンの居酒屋レベルの知識では、太刀打ちできないメニューピョン」
 メニューとにらめっこしながら困惑するふたりの様子を見て、ははは、と一之倉は笑った。河田は先に一之倉からメニューの説明を受けていたようで、「んだびょん」とふたりに同意している。一之倉はさらに愉快そうに目尻のしわを深めた。
「俺も別に詳しいわけじゃないけど……じゃあ、適当に頼むね。足りなかったら後で追加すればいいし」
「おう、頼むわ」
「ありがとなイチノ」
 フードメニューを一之倉に一任して、今度はドリンクメニューを凝視していた深津が、
「ビールにも種類があるピョン……」
と、絶望したように呟いた。松本もそのメニューをのぞきこんでみると、数種類のビールのあとにまた別のカクテルなどの酒の名前がずらりと並んでいた。そのほとんどが皆目味の検討すらつかない。ちらっと顔を上げると河田と目が合い、諦めたように笑って首を横に振られたので、結局また3人は一之倉に視線を向けた。「ええ?」と困惑しながらも、ドリンクメニューを受け取った一之倉は、んー、とそれに目を通して、何かを思いついたように顔を上げた。
「3人はワインは?」
「飲んだことねえな」
 その松本の言葉に、河田も続いて首を縦に振る。少しだけ逡巡していた深津は、
「俺は1回だけあるピョン」
と、その経験を思い出したように言った。一之倉の目がキラッと輝く。
「お、どうだった?」
「まあ悪くはなかったピョン。でも、判断できるほどは飲んでない」
「そっか。それなら、一本飲んでみない? ハマるかも」
 にっこりと綺麗な笑みを作った一之倉に、3人はやや押され気味にだがうなずいた。

*

 ちょうどよく晴れて気持ちの良い日の午前11時頃、3人が住む家のリビングの窓は完全に開け放たれていた。
 リビングに続くキッチンでは、松本と三井が肉や野菜などの食材を準備している。深津と牧は庭でバーベキュー用のグリルに炭を並べて燃していた。といっても、炭がほどよく燃えるように熱心に作業しているのは牧のみで、深津はただそれを見守るように横に立っているだけだ。
 この日の集まりは、藤真のかねてからの希望により実現した。千葉寄りの東京にある大学へ進学した藤真は、神奈川方面に来ることが少なく、三井たちが引っ越してからもなかなか遊びにくる機会がなかったのだ。牧ばかりが3人の住む家に頻繁に足を運び、深津や松本とも交友を深めていると聞いて羨ましがっている、というのは三井からふたりが伝え聞いた藤真情報だった。そうして3人がここで暮らし始めて1年ほどが経った今日、やっと日程が合い、5人そろっての会開催にこぎつけたというわけである。
 春らしく暖かくなってきたということもあり、せっかくなら庭でバーベキューをしようという話になった。バーベキューの機材は、牧の叔母の私物がしまい込まれている物置から引っ張り出されたものだ。サーフィンを牧に教えた人物でもあるという叔母を評して、「多趣味な人なんだよ」と牧は笑っていたが、3人はもはや恐怖に近い感情を覚えた。そのバイタリティたるや、底が見えない。
 そんな牧の叔母の逸話などを聞きつつ、ほとんど準備も整ってきた頃、門扉がガチャガチャと開けられる音がして、藤真が玄関前の階段をのぼってきた。炭から顔を上げた牧が、
「藤真! こっちだ」
と声をかけると、玄関のほうへ真っ直ぐ進んでいた藤真は立ち止まって、庭のほうに向いた。牧たちを目にとめると、「おう」と気持ちよく笑い、玄関前の道から折れて庭のふたりのもとに歩み寄ってくる。
「はよ!」と牧の背中を勢いよく叩いたと思うと、藤真はグリルの横に立つ深津のことを振り仰いだ。
「深津も、はよ。こないだのインカレぶりだな」
 ニィッと笑って言ったそれが、昨年末のインカレでの対戦のことを指しているのは明白で、深津は少しだけ眉をぴくりと動かした。
「……おはようピョン」
「藤真、お前……」
「なんだよ」
 牧があきれたような表情をするのに対して、藤真は口角を上げたまま、挑発するように眉を上げて返した。それを感情の読めない表情で見ていた深津が、
「……性格悪いピョン」
とぼそりと呟いたのを聞いて、藤真は弾かれたように腹を抱えて大笑いしだした。
 藤真が来た音を聞いてリビングの窓から顔を出した三井と松本は、爆笑する藤真とあきれた表情の牧、冷めた表情の深津、という謎の状況を目の当たりにして、3人の顔をキョロキョロと見回す。
「なんだなんだ。どうした?」 
「なんかあったのか?」
 目の端に浮かべた涙を拭いながら、藤真は深津の肩に手を乗せた。なおも笑いが収まらないその姿を、じとっとした瞳で深津は見た。
「……」
「ははっ、なんでもないって! 深津も案外、からかいがいあんな~」
「たちが悪いピョン……」
 牧は、はあ、とため息をついて、
「いつもの藤真の悪癖だよ……」
と、三井に対して肩をすくめてみせる。その意味を正しくくみ取ったらしい三井は、ドンマイ、という表情で深津を見た。
 藤真はそんなふたりのやりとりは意にも介さず、窓のところにいた三井に歩み寄ってきて、無邪気にグータッチした。ふたりのいつもの挨拶だ。その背では、憮然とした表情の深津を牧が代わりになだめている。
疑問符を浮かべながら、それぞれの様子を見ていた松本は、三井の隣にいた流れで藤真から声をかけられ、いったん挨拶を交わした。こうして改めて面と向かってみると、藤真は整っているという点では三井と同じだが、美しさが際立つようなまた違ったタイプだ。ただ、人懐っこさは同様のようで、向けられた笑顔に少しだけ気圧される。牧や三井から聞く話と試合会場などで見かける印象に、どうも乖離があるように思っていたが、なるほど幼なじみの話す人物像には間違いがない。
 三井が「よく来たな」と藤真を室内に案内するのを見送って、入れ替わりに松本は庭に降り、グリルの様子をのぞき込んだ。任せておけ、と言っていた牧の言葉のとおり、グリルに敷かれている炭は燃えて、いい感じの状態になりつつあるようだった。